M&Aで起業・副業は正しい手段? メリットやデメリットを詳しく解説
更新日:5月29日
近年、後継者不足の会社が増えていることもあり、M&Aで起業・副業する事例が増えています。
後継者不足という問題を真剣に捉え、会社の存続のために一役買いたいという方が多いのかもしれませんね。
しかし会社を買って(M&Aをして)起業・副業することは、会社員の方でも可能なのでしょうか?
仮に可能だとしても、会社を買って起業・副業する際にどこに相談すればいいのかわからない、という声もあるようです。
そこで本記事では、M&Aで起業・副業をしたいと考えている方のために、メリットやデメリットはもちろん、具体的にどのようにM&Aを進めていけばいいのかについて詳しく解説していきます。
M&Aによる起業・副業は増えている!
まずは個人がM&Aで会社や事業を買う事例が増えている背景からお伝えしていきます。
突然ですが「127万社」という数字を見て何を思い浮かべるでしょうか?
実はこの127万社とは、日本全国の後継者不足の会社の数です。
中小企業庁によると、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人であり、このうち約半数の127万が後継者未定と公表しました。
つまり日本全国の中小企業の1/3は後継者が不在となるわけです。
この状況はとても深刻で、現状を放置すると中小企業・小規模事業者廃業の急増により、2025年までの累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性があるとされています。
参考:中小企業庁
このような現状を打破するために、中小企業庁ではM&Aを後押しする施策を実行しています。
具体的には、独立行政法人 中小企業基盤整備機構が運営する「事業承継・引継ぎ支援センター」の立上げが一例です。
またこれまでの常識として、M&Aは企業同士がやるものから会社員などの個人が買うという新しいフェーズに突入しています。
実際にテレビなどのマスメディアでは、個人が会社を買って起業する事例も紹介されるようになりました。
元看護士でウェディングドレスのレンタル事業を行う会社へのM&A、元証券営業マンが酒造会社へのM&A、他にも学習塾や民泊事業など、個人がM&Aで起業する事例が増えてきています。
また資金援助という視点からも、政府系の日本政策金融公庫が個人M&A向けの融資も行うようになりました。
このようにM&Aは企業同士が行うもの、という常識から個人でもM&Aを実行して起業する土台はでき上ってきています。
M&Aで起業・副業するメリットとデメリットは?
それではここで、M&Aで起業・副業するメリット・デメリットを明確にしていきます。
まずはM&Aで起業・副業するメリットを挙げてみます。
時間が買える
起業するよりもお金がかからない
資金調達や借入れがしやすい
許認可の申請が必要ない
起業の練習の場として活用できる
続いてデメリットは以下のとおりです。
簿外債務などのリスクがある
従業員や取引先との関係構築が大変
買収費用がかかる
M&Aで起業する5つのメリット
改めてM&Aで起業するメリットを見てみましょう。
時間が買える
起業するよりもお金がかからない
資金調達や借入れがしやすい
許認可の申請が必要ない
起業の練習の場として活用できる
M&Aで起業する最大のメリットは時間が買えるということでしょう。
ゼロから起業すると、登記手続きや許認可はじめ、事業を作ってマネタイズしてと売上が立つまでに相当な時間を要します。
もちろんゼロから自分で全て作り上げたという実績は作れますが、売上を作るためには忍耐力とある程度の資金力は必要です。
この点、M&Aで会社を買ってしまえば会社の資産(オフィスや生産設備等)も手に入り、さらには既に事業が存在していることが多く買収直後から売上が発生します。
企業間でもM&Aをすることが多くありますが、この目的はゼロか事業を作るよりも買収して早く売上を作れるためでしょう。
そして時間が買えることに付随して、M&Aによる起業はお金をかけずに低コストで事業が開始できる点もメリットの1つです。
事業の規模によりますが、従業員が必要な場合は採用コスト、仕入れなど会社運営には会社員時代には考えもしなかったコストがかかります。
さらに起業直後に金融機関から借入れをしようと思っても、信用の低さから借入れができないことが多いです。
しかしM&Aで会社を買えば経営者が変わったとはいえ、これまでの会社運営実績があるため借入れもしやすくなります。
また法人で事業を開始するためには、事業内容に応じて行政機関に対し許認可が必要になることも。
業種 | 行政機関 |
酒蔵・販売 | 税務署 |
不動産業・ガソリンスタンド ペットショップ・介護事業 | 都道府県 |
飲食・旅館・美容室・エステサロン | 保健所 |
人材派遣業 | 労働局 |
ゲームセンター・リサイクルショッ | 警察 |
タクシー業 | 運輸局 |
※酒蔵・酒類の販売、不動産業は許認可ではなく免許が必要
上記の表は免許・許認可が必要な業種の一部です。該当する業種で営業をする場合、届出や許可、登録を行わないと営業ができません。
仮に許認可や届け出を行わずに営業してしまうと処罰の対象となります。
M&Aで会社を買えば、許認可が必要な業種であっても、すぐに営業できるため手続きの煩わしさは省けますよね。
最後にM&Aで起業するメリットとして、本格的な起業の練習の場として活用できる点も挙げられます。
「起業」といえば、会社を辞めて覚悟を決め…、と考えている方が多いと思います。
しかしM&Aで起業することで、会社に勤めながら副業としてスタートし、本格的な起業の練習の場としても活用できます。
実はM&Aは会社を買うだけではなく、SNSのアカウントやYouTubeのアカウント、ある会社の事業、Webメディアを買うことも可能です。
会社をまるごと買えば、会社員をやりながらでは難しいかもしれませんが、SNSアカウントだけや一部の事業だけなら副業としてスタートできるでしょう。
「いきなり会社を買うには荷が重すぎる」と感じるのであれば、まずは事業だけ買って副業からスタートしてみるのもいいかもしれませんね。
気になる買収費用の相場ですが、個人レベルのM&Aであれば100万円程度、さらにいえば譲渡価格ゼロ円の案件も存在します。
このあたりについて、100万円で買える会社やゼロ円で買える会社の具体例や買い方などを別ページで詳しくまとめています。
興味のある方はぜひチェックしてみてください。
M&Aで起業する3つのデメリット
M&Aで起業する際はメリットがある一方で、デメリットも存在します。
デメリットをしっかり理解した上で、M&Aに踏み切るようにしましょう。
こちらも改めてM&Aで起業するデメリットを挙げてみます。
簿外債務などのリスクがある
従業員や取引先との関係構築に時間を要す
買収費用がかかる
まず①、簿外債務などのリスクがあることを理解しておきましょう。
簿外債務とは、会社の帳簿外にあった債務のことで、たとえば支払っていない残業代などの未払い賃金が挙げられます。
中小企業の多くは「現金主義」といって、まだ支払いが発生していない費用を帳簿に負債として計上しないケースが存在します。
これに気づかずにM&Aを実行してしまうと、買収後に債務返済の義務を負ってしまいます。
簿外債務を見抜くためには、会計士や弁護士などの専門家に依頼してデューデリジェンス(DD)を念入りに行うしかありません。
当然、DDを行うためには費用も発生しますが、後で債務を負わないためにもしておいた方がいいでしょう。
続いて②ですが、従業員や取引先としては、経営者が変わったことで当然これまでとは会社への見方が変わってきます。
買収してあまりに横暴な態度をとってしまうと、従業員や取引先が離れてしまうこともあるでしょう。
最後に当然ではありますが、M&Aで起業する際に買収費用がかかります。
確かに先ほど触れたとおり、100万円やゼロ円の案件など、個人でも手が届く金額で会社を買えます。
大事なことは、その買収費用が適正価格であるか? です。
この点については、簿外債務を見抜く場合と同様に、デューデリジェンス(DD)を実施しておくべきでしょう。
なお個人M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)については、別ページで詳しく解説しています。
そもそも個人M&Aでデューデリジェンス(DD)が必要なのか? 実施費用はどれくらいなのか? など気になる疑問についても触れいていますので、興味のある方はぜひご覧ください。
M&Aで起業・副業するならマッチングサイトが正解?
それではここから具体的にM&Aで起業するために、案件の探し方をお伝えしていきます。
ご存知の方も多いと思いますが、近年は「M&Aマッチングサイト」が台頭し、個人であっても手軽に会社の売買が可能になりました。
しかしここで気になるのは「どのようにして案件を探せばいいのか?」ではないでしょうか?
ここではM&Aで起業するための案件探しを具体的にお伝えしてきます。
最もベーシックな探し方はM&Aマッチングサイト
個人がM&Aの案件を探す最もベーシックな探し方がM&Aマッチングサイトの活用です。
具体的にはバトンズなどを利用する形になります。 バトンズなどのマッチングサイトは、圧倒的に知名度が高いかつ、情報量が豊富です。
ここで案件の探す前に、ポイントを3つ紹介します。
業種を絞る
エリアを絞る
予算・事業規模を絞る
M&Aマッチングサイトで案件を探す前に、少なくとも上記3つは明確にしましょう。
まず①、買収する対象の業種を絞り込みます。
たとえばご自身が経験がある業種でもいいですし、昔から興味がある業種でも大丈夫です。
大事なことは「ご自身が興味持てる業種」であることです。
「何となく儲かりそう」「流行っているから」「安いから」など、曖昧な決め方はしないということですね。
このような理由でM&Aを実行しても、最後まで責任を持ってやり遂げられず、中途半端な形で終わるもしくは廃業する可能性もあります。
可能な限り買収対象の業種は絞り込んでおきましょう。
続いて②、エリアですが買収対象企業の所在地がどこにするかを事前に決めておきます。
ネットビジネスであればどこに会社があろうと、大きな影響がないかもしれませんが、そうでない場合は「自分が働けるエリアなのか?」を確認しておきましょう。
おすすめとしては、今現在お住まいのエリアで案件を探す方がいいでしょう。
実際にM&A実行前に買収対象企業に出向くこともありますし、極力移動距離が短い方がいいですよね。
最後に③、予算・事業規模をどの程度にしておくか明確にしておきましょう。
予算については各々の経済状況によりますが「いくらまでなら買収費用を用意できるか?」のボーダーラインを明確にしておいた方がいいです。
これを決めずにM&Aを進めてしまい、自分の資金のギリギリで買収してしまうと、買収後に設備投資をしたくてもできなくなることも。
ご自身の全財産を予算とせず、少し余裕を持たせておいた方がいいですね。
仲介業者や公的機関に相談してみる方法も
M&Aというと、一般的にM&A仲介業者に頼る手段が考えられます。
実際にM&Aでは会社法や税務、会計知識等の専門的な知識が必要です。これらの知見がある方であれば問題ないかもしれませんが、多くの方はそうではないと思います。
そこで頼るのが、M&Aの専門家であるM&A仲介業者です。
M&Aの仲介業者を利用することで、案件探しからスケジューリング、譲渡企業との細かい調整まで丸投げできます。
ただし当然といえばそうですが、M&A仲介業者に頼る場合は手数料が発生します。
手数料は仲介業者によりますが、成約時に1,000万円前後となることも…。
またM&A仲介業者の立場としては、基本的に1度しか仲介の依頼されない個人に対し手厚いサポートはしにくいのが本音です。
事実、M&A仲介業者に案件探しを依頼した個人が、いつまで経っても案件を紹介されなかった事例もあります。
高額な手数料と手厚いサポートが受けられない可能性を踏まえると、個人がM&Aを実行する場合に仲介業者の利用は合理的ではないといえますね。
しかし公的機関を利用して案件を探す方法は選択肢の1つとして考えておきましょう。
すでに述べましたが、現在の日本は後継者不足で悩む中小企業の数が増えています。
このような状況を打破するために、中小企業庁を中心にM&Aマッチング支援を進めています。
最も身近なところでいえば、商工会議所を利用することです。
たとえば東京都であれば「東京都 事業承継・引継ぎ支援センター」として無料で相談できます。
また先ほど触れた日本政策金融公庫とも連携しており、融資を受ける際もスムーズに対応してもらえる可能性もあります。
相談は無料なため一度足を運んでみて損はないでしょう。
なおM&Aマッチングサイトで案件を探す、仲介業者や公的機関を利用するにあたり、失敗事例も多く存在します。
この点をまとめた記事を別ページで詳しく書いていますので、気になる方は下記ページをご覧ください。
個人がM&Aで起業・副業する4つのポイント!
それではここから個人がM&Aで起業・副業するポイントを4つにまとめましたので、以下で詳しく解説していきます。
買いたい会社のイメージを作る
こちらは先ほどのM&Aマッチングサイトで案件を探す際のポイントにてお伝えしましたが、大事な部分ですので改めて触れておきます。
先ほどの案件探しの3つのポイントを再度見てみましょう。
業種を絞る
エリアを絞る
予算・事業規模を絞る
繰り返しになりますが、M&Aで起業・副業する場合は、上記3つを明確にしておきましょう。
また事業規模が大きくなり、それに伴い買収金額が高くなる場合は、日本政策金融公庫などを活用しどの程度融資が受けられるかも確認しておきます。
そして買収後に「どのような付加価値をつけて会社を大きくしていけるか」についても考えておきましょう。
M&Aは実行して終わりではなく、ここからが本当のスタートです。
起業するということは、経営者になるわけですので、今後の会社をどう守り、どう変えていくのか考えておかなければなりませんよね。
マネタイズの仕組みを理解しておく
続いて買収対象となった会社のマネタイズの仕組みは必ずチェックしておきましょう。
こちらも個人で会社を買う場合に見逃してしまう点で、買おうとしている会社がどんな商品やサービスを提供し、市場全体で自社がどの位置にいるのかなどを把握します。
また取引先や顧客、集客方法なども事前にチェックしておいた方がいいでしょう。
DD(デューデリジェンス)を実施
こちらも既出になりますが、簿外債務のリスクを避けるためにもDD(デューデリジェンス)は行っておくべきでしょう。
M&Aの失敗としてよく挙げられることが、この簿外債務の発覚で、多くの場合はDDを念入りに行っていなかったことです。
ただし「個人レベルのM&Aであれば、組織構造も複雑でないからDDは必要ないのでは?」という声もあります。
確かに個人レベルのM&Aでは、会社の規模も比較的小規模であるため、多額の簿外債務がある可能性は低いです。
またDDはM&Aにおいて任意の作業ですので、必ずしなければならないわけではありません。
それでも買収後に債務返済に追われ、事業どころではなくなる事例もありますので、費用はかかりますがDDは実施しておいて損はないでしょう。
M&Aマッチングサイトの登録情報を充実させておく
最後になりますが、M&Aマッチングサイトを利用する場合は、ご自身の登録事項は可能な限り充実させておきましょう。
この点は会社員の方が転職等で使用する「履歴書」や「職務経歴書」に代わるもので、売り手企業も買い手の登録情報をもとに精査していきます。
登録情報が曖昧、足りない、熱意が伝わってこないなどがないように、充実した情報を提供しておきましょう。
まとめ:M&Aで起業・副業はこれからの新しい選択肢に!
公的機関のバックアップもあり、M&Aで起業・副業という選択肢は今後増えていくことが予想されます。
ゼロから起業する場合もM&A同様にメリット・デメリットがありますが、すでに事業があるのであれば会社を買うことで、すぐにマネタイズできる点がM&Aの特徴ですよね。
ただし、これはゼロから起業する場合も同じですが、ある程度の知識武装が必要です。
何も知らないままM&Aを進めても大きな失敗となる可能性もあります。そうならないためにも、事前に最低限の知識はつけておきたいですよね。
「個人M&Aなら、M&Acompass」
M&Acompassは、個人M&Aの買い手に対する伴走支援です。これまでM&Aの専門家のサポートが十分に届いていなかった個人の買い手向けの伴走支援であり、個人M&Aの成約を目指すためのM&A戦略立案・案件探しといった初期的な工程からクロージングまでを支援するサービスです。
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