個人M&Aにデューデリジェンス(DD)は必要? 種類・費用・期間まで徹底解説
更新日:5月29日
企業間のM&Aにおいて、買収前にデューデリジェンス(DD)が実施されることが多いです。
デューデリジェンスを実施し、財務や税務、法務、労務など各領域のリスクを把握し、M&A後の対応やを買収を進めるか否かの判断材料にします。
しかし比較的小規模な案件が多い個人M&Aで、デューデリジェンスが必要なのか? という疑問を持たれる方も多いようです。
そこで本記事では、個人M&Aにおいてデューデリジェンスが必要なのかを理解して頂くため、デューデリジェンスの種類や費用、期間など詳しく解説していきます。
M&Aでデューデリジェンス(DD)を実施する2つの理由
そもそもM&Aにおいてデューデリジェンスは必須業務ではなく、あくまで任意となっています。
ではなぜデューデリジェンスを実施する必要があるのでしょうか? 理由は以下の2つ。
買収対象企業のリスクの洗い出し
投資価値判断の材料
それでは細かく説明していきます。
①買収対象企業のリスクの洗い出し
個人M&Aにおいて買収対象企業を探す際に、多くの場合はバトンズやトランビなどのM&Aマッチングサービスを利用します。
その際に事業概要や譲渡理由、財務状況などを確認します。
しかしどのM&Aマッチングサービスもいえますが、財務や税務、法務などの概要について、細かい記載はありません。
実際にM&Aマッチングサービスのバトンズを見てみましょう。
こちらはバトンズの案件掲載画面の一部です。
ここでは「財務概要」として記載されていますが、売上高や利益の大まかな数字しか確認できません。
もちろん、この記載内容だけでも買収の判断材料にならないわけではありませんが、売上や利益の細かい中身まで確認するのは難しいです。
ここでまず、買い手側と秘密保持契約(NDA)を結んで自分で資料を受領してみます。
なお秘密保持契約を結ぶことに関しては必須ではなく、あくまで売り手が希望した場合となります。売り手が望んだ場合は対応するようにしましょう。
秘密保持契約を結び財務諸表を受領し、売上や利益の中身、会社の資産などを細かく確認します。
ここで買収対象企業のリスクを洗い出せればいいですが、自分で精査するには専門的な知識が必要で限界があると思います。
そこで実施するのがデューデリジェンスです。
財務であれば公認会計士、税務であれば税理士など、専門家にデューデリジェンスを依頼し、会社の状況を確認してもらいリスクを洗い出してもらいます。
専門家でなければ見つけ出すことが難しい部分を共有してもらい、買収後にどのようなリスクがあるのか把握できれば安心してM&Aへと進めますよね。
②投資価値判断の材料
M&Aマッチングサービス上に記載されいている譲渡価格は、あくまで売り手側の「希望譲渡価格」である点を理解しましょう。
たとえば譲渡希望価格が300万円の会社があったとします。
しかしこの会社に借入れが250万円あったとしましょう。債務の取り決めをしていなかった場合、会社を買い取ると債務者は買い手側に移ります。
ではこの会社の譲渡価格300万円は適正な価格でしょうか?
仮に債務不履行となると、買い手側がこの250万円を負担することになりますよね。
単純計算ではありますが、譲渡価格300万円に対して債務が250万円あれば、この会社は50万円と算出できます。
そこでデューデリジェンスを実施して、その結果を踏まえて、希望譲渡価が妥当なのかを考えてみます。
デューデリジェンスでは、M&Aマッチングサービスだけでは確認できないリスクや問題点の抽出を行います。
仮にデューデリジェンスにて問題が見つかった際は、譲渡価格の見直しや対処方法の取り決めを売り手側と調整します。
具体的には売り手との譲渡価格交渉の場において、「◯◯というリスクもあるため、適正価格は△万円が妥当だと考えられます」など交渉するわけです。
デューデリジェンスで見つかったリスクや問題点を売り手がどう捉えるかは交渉次第ですが、やみくもに「譲渡価格を下げてください」では説得力に欠けますよね。
そこで根拠となるデューデリジェンスの結果を活用し、売り手に納得してもらう材料とします。
この点を踏まえると、会社や事業の買収後に問題が発覚し、多くの時間とお金、労力を使うよりも、多少の費用をかけてでも買収前にデューデリジェンスを実施しておく方が費用対効果が高いともいえます。
仮にデューデリジェンスで大きな問題が発見されれば、買収自体を止めるのも可能です。
それでは以下で、M&Aにおけるデューデリジェンスの種類や費用を細かく見ていきましょう。
M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)の種類と費用
M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)といっても、実は複数の種類が存在します。
必要に応じて実施するデューデリジェンスを選択し、リスクを洗い出していきましょう。
ここではM&Aにおける代表的な5つのデューデリジェンスについて解説し、加えて費用がどれくらいかかるのかについても見ていきます。
M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)の種類
まずはM&Aにおけるデューデリジェンスの5種類が、どのような内容かについて説明していきます。
■財務DD:公認会計士など
買収対象企業の過去の一定期間における業績、財政状態やキャッシュフローの分析。収益性や会社資産、設備投資、簿外債務、偶発債務の把握を目的とする。
■税務DD:税理士など
買収対象企業に潜む税務リスクの洗い出し。過去に実施された税務調査状況や税務申告書の閲覧などを実施。
■法務DD:弁護士など
買収対象企業の株主関係、組織の現状、関連会社、資産等の確認、法令順守状況や訴訟等のリスクの洗い出し。重要な取引先との取引は継続できるか、知的財産権を侵害していないかなどの法務リスクを調査。
■ビジネスDD:経営コンサルタントなど
買収対象会社の持つ将来の可能性とリスクについて把握し、想定されるシナジー効果に関して分析。
■労務DD:社会保険労務士など
未払い残業代や過重労働や労働災害のリスクの洗い出し。これらの対応にかかる多大な人的対応コストがないか確認。
このようにデューデリジェンスと一言でいっても、様々な専門領域があり、それぞれ目的が異なります。
そして上記5つのデューデリジェンスに加え、バリュエーションを実施して買収の判断材料とします。
ただし買収対象企業が比較的小規模な個人M&Aでは、これらのデューデリジェンスを全て実施することは少ないです。
それでも買収前に気づけなかったリスクが買収後に発覚するのは避けたいですよね。
そこで、たとえば財務デューデリジェンスだけ実施する、など実施項目を絞ってデューデリジェンスを行うなど検討してみるといいでしょう。
また最近では個人M&Aなど、小規模のM&A案件に合わせてパッケージ化したデューデリジェンスを行うサービスも誕生しています。
具体的には財務・税務・法務など簡易的なデューデリジェンスを30万円程度の費用で実施するなどです。
いくら買収対象企業が小規模とはいえ、不安であれば簡易的なデューデリジェンスを実施してみるのもいいですね。
続いてデューデリジェンスの費用について見ていきましょう。
費用は数十万〜数百万円が相場
個人M&Aにおけるデューデリジェンスの費用は買収対象企業の規模により変動しますが、数十万〜数百万円を見ておけばいいでしょう。
この数十万〜数百万円というのは、中小企業を対象に財務・税務・法務のデューデリジェンスを実施した場合の費用です。
なお企業間でデューデリジェンスを実施する場合は、財務DDと税務DDで数百万〜数千万円、法務DDと労務DDで数百万〜数千万円、さらにビジネスDDを実施する場合はさらに数百万〜数千万円と総額1,000万円以上となることも珍しくありません。
個人M&Aであればここまで費用をかける必要はなく、パッケージ化された簡易的なデューデリジェンスとして数十万〜数百万円程度を見ておきましょう。
続いてデューデリジェンスがM&Aの実行過程でいつ実施されるのかや、流れついて説明していきます。
M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)は基本合意書を締結したタイミングで実施
M&Aの成約までのステップは大きく3つあります。
イメージ作りと事前準備
交渉と分析
条件提示と成約
このうち③条件提示と成約にて、売り手買い手の双方で条件に合意し、基本合意書を締結した後にデューデリジェンス(DD)を実施します。
基本合意書とは、売り手と最終契約の締結前に交わされる合意書のことです。
この段階ではあくまで両者の認識の一致が目的で法的拘束力は持たず、今後の取引を問題なく行うための位置付けです。
基本合意書は法的拘束力を持たないため、仮にデューデリジェンスを実施して問題が発覚した場合は買収を中止できます。
デューデリジェンスは買い手との交渉を進め、売り手買い手双方で認識を一致させてから実施するものと理解しておきましょう。
なお個人M&Aの基本的な流れについては、別ページで詳しく解説しています。詳しく知りたい方は、下記リンクから記事をチェックしてみてください。
M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)の流れ
それではここからM&Aにおけるデューデリジェンス(DD)が、どのような流れで進められるのかを解説していきます。
おおまかな流れとしては以下の3つです。
実施項目の決定と依頼先の選定
キックオフミーティング
資料分析と調査報告
なお個人M&Aで実施されるデューデリジェンスは、項目が限られることから、早ければ1〜2日で完了します。
実施する項目が多く、企業同士の大規模なデューデリジェンスの場合は、1~2カ月程度かかる場合もあります。
ここでは個人M&Aで予想されるデューデリジェンスの流れについて見ていきましょう。
①実施項目の決定と依頼先の選定
まず最初にデューデリジェンスの実施項目を決定します。
先ほども触れましたが、個人M&Aの買収対象は組織構造が比較的簡易的かつ、事業も大きくないため実施するデューデリジェンスを絞ってみてもいいでしょう。
たとえば財務デューデリジェンスのみ実施し、従業員を抱えている、過去に税務面や法務面でトラブルがあった、など確認されていれば、労務DDや税務DD、法務DDを必要に応じて行うなどです。
では各デューデリジェンスについて、どの専門家に依頼するのかについて解説します。以下の表をご覧ください。
DD | 専門家 |
---|---|
財務DD | 公認会計士、監査法人等 |
税務DD | 税理士等 |
法務DD | 企業法務やM&Aが専門の弁護士等 |
労務DD | 社会保険労務士等 |
ビジネスDD | 経営コンサルタント等 |
このように、専門領域に応じて各専門家に依頼していく形となります。
②キックオフミーティング
デューデリジェンスの実施項目と、依頼先である専門家が選定できればキックオフミーティングを開催します。
ここで各専門家に対して案件の概要を説明し、情報を共有しておきます。加えてスケジュールや実施範囲、コスト面等も話し合い、業務委託契約を締結させましょう。
ミーティングが終われば、専門家に必要な資料リストを作成してもらいます。
資料リストが作成できれば、いよいよデューデリジェンスが実施されます。
③資料分析と調査報告
専門家によるデューデリジェンスが終了し、資料の分析と調査報告が始まります。
各専門家からの結果をもとに、買収対象企業のどこのリスクがあるのかなどを明確にしていきましょう。
また場合によっては、別途報告会の場としてミーティングを開催します。
仮にデューデリジェンスの結果、買収対象企業に大きな問題やリスクが発覚すれば、買い手側に譲渡価格の引き下げを提案したり、契約書にリスクヘッジの文言を追記したりしましょう。
個人M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)の3つのチェックポイント
最後に個人M&Aでデューデリジェンス(DD)を実施する場合のポイントを紹介します。
特に押さえておきたいポイントは以下の3つです。
費用対効果を意識
結果をどう活用するか?
確認漏れがないようにあらかじめQAリスクを作成しておく
以下で詳しく解説していきます。
デューデリジェンスの実施に際し費用対効果を意識
個人M&Aでは買収対象企業が小規模であることが多いです。また会社ではなく、事業を買う場合も考えられます。
このことから、譲渡価格は比較的低価格になる傾向にあります。
つまり安価な譲渡価格に対して、どこまでデューデリジェンス費を許容するかです。
場合によっては、デューデリジェンスを実施しないこともあるでしょう。
またデューデリジェンスの費用は、買収対象企業の規模が大きくなれば調査対象範囲が広がり、同時に費用がかかってきます。
そもそも個人M&Aの買収対象企業は、従業員が2~3人などと規模が小さく、加えて資産もそれほど多くない場合が多いです。
そうであればデューデリジェンスを実施しなくても、リスクの把握は難しくありません。
このようにデューデリジェンスの調査対象が限られている場合は、実施することによる費用対効果があまり期待できないこともあるでしょう。
デューデリジェンスの結果をどう活用するか?
デューデリジェンス実施において大切なポイントは、その結果をどう活用するかです。
冒頭でデューデリジェンスの目的について触れましたが、改めて述べると「買収対象企業のリスクの洗い出し」と「投資価値判断の材料」の2点です。
ではこれらが抽出できたとして、結果を踏まえて今後の交渉をどう進めるのかの一例を簡単にまとめます。
DDの結果 | 交渉の進め方 |
特段大きなリスクなし | 買収交渉へ進む |
一部でリスク(債務や事業リスク等)がある | 譲渡価格の引き下げ等を交渉 |
大きな問題が発覚 | 買収交渉を中止 |
特に「一部でリスク(債務や事業リスク等)がある」場合の判断が難しくなります。
この場合は譲渡価格の引き下げ交渉や契約書にリスクヘッジの文言等を追記するなどの対応をしてみましょう。
たとえば飲食店を買収対象とすると考えてみます。
譲渡価格は500万円。しかし財務デューデリジェンスにおいて、会社名義で複数名の連帯保証人(保証金額は総額200万円)になっていたことが発覚します。
この場合、保証金額200万円を踏まえて譲渡価格を300万円に引き下げる、または契約書にて連帯保証人を前オーナーに変更するなどの文言を追記します。
また連帯保証の内容によっては買収交渉を中止する可能性もあるでしょう。
買い手であれば誰しも譲渡価格は抑えたいものです。
しかし特段材料がない状態で、買い手に対し「もっと譲渡価格を下げてください」と述べただけでは納得してもらえませんよね。
そこで念入りにデューデリジェンスを実施して、リスクや問題点を抽出し、条件交渉の際に売り手に納得してもらう材料を揃えておきましょう。
確認漏れがないようにQAリスクを作成しておく
デューデリジェンス実施に際し、専門家が必要資料リストを作成し売り手に提出します。その後、売り手から資料を受領し専門家による精査が行われます。
この時、ほぼ100%の確率で専門家より追加の確認事項または追加の書類提出を依頼されます。
各専門家から出てきた確認事項や追加の書類については、QAシートとして1つのシートにまとめておくといいでしょう。
後で資料を確認する際も、何を聞いたのか確認できますよね。
また資料のやり取りだけでは不十分な場合は、専門家による買収対象企業である売り手に対しインタビューを実施する場合もあります。
インタビューを実施する場合は、買い手が売り手と専門家の間に入って日程調整等を行います。
ここでも、何をインタビューするのか、またその解答をまとめておくためにQAシートを活用しましょう。
まとめ:個人M&Aでは費用対効果を意識してデューデリジェンス(DD)を実施する
本記事では、個人M&Aにおいてデューデリジェンス(DD)を実施すべきか、についてと種類や費用についてお伝えしてきました。
今回お伝えしてきた内容をまとめてみます。
デューデリジェンスの結果を投資価値判断の材料にする
費用は数十万〜数百万円
デューデリジェンスは費用対効果を意識して絞り込んでみる
M&Aは会社を買ったら終わりではなく、買ってからが本当の勝負です。
せっかく意気込んでM&Aを実行したにも関わらず、買収後に様々なリスクや問題が発覚し、余計な時間やお金がかかるのは避けたいですよね。
ただし譲渡価格を踏まえて、デューデリジェンスを実施すべきかを慎重に判断しましょう。
「個人M&Aなら、M&Acompass」
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