個人M&Aで必要な契約書は? 流れに沿って必要な契約書を詳しく解説
更新日:5月29日
個人M&Aを実行する過程において、様々な場面で契約書が必要になります。
契約書の種類は複数あり、その都度売り手と話し合いながらM&A を進めていきます。
しかし多くの方は契約書作成の経験が少ない、または全くないため「どの場面で契約書が必要なのか?」「契約書の記載内容は?」「契約書の作成は専門家に頼るべきか?」など様々な疑問が出てくると思います。
そこで本記事では、一般的な個人M&Aにおいて交わすことが多い契約書をリストアップし、概要まで詳しく解説していきます。
個人M&Aで必要な契約書の一覧
M&Aで必要な契約書はいくつかありますが、ここでは個人M&Aで必要になる可能性が高いものを4つピックアップしてみます。
秘密保持契約書
意向表明書
基本合意書
最終契約書
各契約書の詳細は後ほど述べていきますが、ここでは個人M&Aにおいて仲介業者を利用しない前提で話を進めていきます。
実は仲介業者を利用すると、上記以外に別途「アドバイザリー契約書」を仲介業者が作成する場合があります。
ただ、個人M&Aの買収対象企業は比較的小規模かつ、譲渡価格も低価格であることが多いため利用される方は少ないです。
また、こちらも後ほど詳しく触れますが厳密にいえば「最終契約書」というものは存在せず、「株式譲渡契約書」または「事業譲渡契約書」を用意します。
それでは初めに、一般的な個人M&Aの流れの中で、どのタイミングで契約書が必要になるかを説明していきます。
M&Aの流れに沿って必要な契約書を用意する
一般的な個人M&Aでは、以下のような流れで手続き等を進めていきます。
買いたい会社のイメージ作り
M&Aマッチングサービスで案件検索
買収先とコンタンクとを取る
ビジネスモデルの理解と財務諸表の分析
条件提示
条件合意
デューデリジェンス
最終契約の締結
クロージング
なお個人M&Aの詳しい流れについては別ページで詳しく解説していますので、ここでは割愛します。流れを確認したい方は以下のページを確認してください。
上記の個人M&Aの流れのうち、先ほど挙げた4つの契約書が必要になるタイミングが③、⑤、⑥、⑧です。
各契約書の詳細については、後ほど詳しく触れるため、ここではなぜ必要なのかに絞ってお伝えしていきます。
まず「③買収先とコンタンクとを取る」ですが、買いたい会社や事業をM&Aマッチングサービスなどで見つけ、質問機能を使って売り手とコンタクトを取ります。
この段階では契約書を交わす必要はありませんが、実名交渉を申請し許可されると秘密保持契約書を用意します。
このタイミングで秘密保持契約書を用意する理由として、売り手とコンタクトを取った後、会社の財務諸表など重要な資料を請求する場合があります。
財務諸表などについては、売り手にとってはとても重要な資料であり、外部に流出してしまうと損害につながる可能性が考えられますよね。
そこで秘密保持契約書で「取り扱いは十分注意してくださいね」と、注意喚起する目的で締結しておきます。
続いて「⑤条件提示」で意向表明書を用意します。
意向表明書は「〇〇万円で会社を買いたいと思います」など、条件提示をする目的で用意します。
売り手は意向表明書の中身を見て、どの買い手に会社や事業を売却するかについての判断材料とします。わかりやすい例でいえば、就職試験の履歴書や職務経歴書のようなイメージです。
なお意向表明書については、あくまで条件提示という位置付けであるため、法的拘束力は持ちません。
条件提示が終わり買い手売り手双方で交渉が始まります。ここで「⑥条件合意」が始まり、基本合意書を交わします。
このタイミングでは、売り手が買い手候補から条件提示を受け、特定の買い手候補に絞って交渉を継続することを決定します。
つまり基本合意書は「これから本格的に交渉を始めますね」という意思表示のようなイメージです。
ただし基本合意書については一部内容にて、法的拘束力を持たすことも。こちらについては後ほど詳しく述べます。
条件合意が終わり、特段大きな問題が発覚しなければ「⑦最終契約の締結」を実施します。
ここで初めて法的拘束力を持つ「株式譲渡契約書」または「事業譲渡契約書」を交わします。
それではここで挙げた4つの契約書について、以下で細かく解説していきます。
個人M&Aで必要な契約書を詳しく解説!
改めて個人M&Aで必要となる可能性が高い契約書を4つ挙げてみます。
秘密保持契約書
意向表明書
基本合意書
最終契約書
なお、ここでは上記4つ挙げていますが、ケースバイケースで必要な契約書が変わることをご留意ください。
それでは各契約書について詳細を説明していきます。
秘密保持契約書
秘密保持契約書とは、自社が持つ秘密情報を他社(他人)に開示する場合、情報を秘密に保持してもらう目的で締結する契約書です。
なお秘密保持契約書を結んでも、対象の会社を買う必要はありません。
締結のタイミングは売り手と実名交渉を開始し、財務諸表や会社の組織図などを受け取る前です。
当然このような情報は、第三者に漏らしてしまうと売り手に不利益が被ります。
競合他社はもちろん、売り手企業の従業員に買収交渉を進めていることを知られてしまうと、会社に対する不信感が生まれます。
そうならないためにも、契約書を交わし秘密保持契約の原則である「知る必要のある範囲内の人に開示」に留め情報を慎重に扱ってください、と約束します。
また秘密保持契約書の注意点として「秘密情報の定義」と「期間」が挙げられます。
特に「秘密情報の定義」は重要で、何が秘密情報で、何が秘密情報ではないかを明確にしておきます。
たとえば売り手が秘密情報と思っていたものを、買い手は秘密情報ではないと思い、外部に漏らしてしまうと損害賠償請求がされる可能性もあります。
そして期間ですが、秘密保持契約で「期間」には大きく2つあり、「秘密情報を取り交わす期間」と「受領した情報を秘密に保持する期間」が存在します。
契約書に記載されている定義と期間について、どのような内容なのかをしっかり理解しておきましょう。
意向表明書
続いて条件提示の際に締結する意向表明書について解説していきます。先述の秘密保持契約書は、M&A以外の場面でも締結しますが、意向表明書はM&Aならでは契約書です。
意向表明書とは、売り手企業に対し「会社や事業を買いたい」という内容を書面にして提出するものです。
具体的な記載事項は以下のとおりです。
譲渡スキーム
譲受価格等
想定されるスケジュール
DDの実施概要
秘密保持の内容
独占交渉権
まず譲渡スキームですが、ここにはM&Aの手法を記載します。個人M&Aにおいては「株式譲渡」または「事業譲渡」が実施されることが多いです。
続いて譲受価格を記載します。ここでの譲受価格はあくまで「これくらいの金額で考えています」という位置付けですので、細かい条件などは記載しなくても大丈夫です。
続いて成約・クロージングまでに想定される大まかなスケジュール、DD(デューデリジェンス)を実施する場合はその概要を記載していきます。
DD(デューデリジェンス)とは、買収対象企業の財務・税務・法務等のリスクを洗い出すために、各専門家に依頼して行われます。
企業間でのM&Aでは必ずと言っていいほど実施されますが、買収対象企業が比較的小規模になる個人M&Aでは実施されない場合もあります。
なおDD(デューデリジェンス)については、別ページで詳しくまとめていますので、実施すべきか悩まれている方はぜひ参考にしてみてください。
DD(デューデリジェンス)の実施概要を記載し、先ほど触れた秘密保持の内容も記載します。
この部分の秘密保持ですが、DD(デューデリジェンス)を実施すると財務や税務等の会社にとって重要な情報が取得できてしまうため「自己営業のために利用しない」と記載することが一般的です。
そして最後に重要な部分となる「独占交渉権」について触れます。独占交渉権とは、買い手が一定期間付与される売り手との独占的な交渉を行う権利のことです。
たとえばDD(デューデリジェンス)を実施する場合、個人M&Aであっても数十万〜数百万円ほどの実施費用が発生します。
仮にこの費用をかけてDD(デューデリジェンス)を実施したにも関わらず、売り手が他の企業や個人と交渉されしまうと困りますよね?
そこで独占交渉権を記載し、売り手に他の買い手との交渉をストップしてもらいます。
なお意向表明書については、法的拘束力はない契約書となり、あくまで売り手が条件等を見て売却の判断材料とする目的で交わされます。
基本合意書
続いて条件合意したタイミングで交わされる基本合意書について説明します。
実は基本合意書の内容は意向表明書と重複する内容が含まれます。では基本合意書と意向表明書の違いは何か?
それは意思表明文書と合意文書の違いです。
先ほど触れた基本合意書は、あくまで買い手候補からの意思表明文書です。就職試験を例にすると、履歴書と職務経歴書の位置付けをイメージしてください。
しかし基本合意書は売り手と買い手候補の「合意文書」です。こちらも就職試験に例えると、雇用契約書のような位置付けです。
就職試験では、履歴書や職務経歴書を提出し、面接を実施し給与や勤務時間などの諸条件について双方で合意できれば雇用契約が成立となりますよね。
つまり売り手側から見ると、基本合意書は買い手を絞り込み交渉を継続すると決めた段階で締結させます。
他の買い手候補がいなくなり、自分だけが売り手と交渉できるわけです。こちらも記載事項の一例を以下に挙げてみます。
譲渡スキーム
譲受価格等
スケジュール
DDの実施概要
善管注意義務
解除権
有効期間
独占交渉権
譲渡禁止
法的拘束力
秘密保持の内容
上記のとおり、先ほど解説した意向表明書と一部記載事項が重複します。
この理由は繰り返しとなりますが、意向表明書はあくまで意思表示であるのに対し、基本合意書は合意文書であり、同じ記載内容でも合意しているか否かの違いがあります。
たとえば意向表明書にて「譲受価格を300万円で希望します」と記載しても、買い手との交渉次第で基本合意書で譲受価格を500万円とする場合もあります。
また基本合意書では一部内容に法的拘束力を持たせる場合があります。具体的には「DD(デューデリジェンス)に協力する」「独占交渉権を付与する」などです。
特にDD(デューデリジェンス)については、高い費用をかけて実施するにも関わらず、売り手が全く協力しなければ何も成果が得られません。
このようなことがないように、DD(デューデリジェンス)実施前に、基本合意書にて協力要請をしておきます。
なお基本合意書には意向表明書に記載がなかった項目もありますが、大前提としてこれら全て双方で合意した内容を記すと理解しておきましょう。
最終契約書
そもそもですが、M&Aで必要な契約書において最終契約書というものは存在しません。
最終契約書とはM&Aの手法によって異なり、株式譲渡であれば「株式譲渡契約書」、事業譲渡であれば「事業譲渡契約書」を用意します。
いずれにせよ、M&Aの過程において最終的な譲渡条件を決めた重要な契約書となる点を理解しておきましょう。
そしてこれまで説明してきた契約書と大きな違いが「法的拘束力がある」点です。
つまり最終契約書を締結すると、法的拘束力を持つため後戻りはできません。そのため、最終契約書の作成はM&Aの流れの中でも特に慎重になりましょう。
ここでは「株式譲渡契約書」に記載する内容を挙げてみます。
M&Aの目的および定義
譲渡価格・支払い方法
表明および保証
株式譲渡実行後の義務
付帯合意
損害賠償
一般条項
なお株式譲渡契約書の内容については、特段決まりがあるわけではないため、記載内容は基本的に自由です。
ここでよく理解しておきたい点が、株式譲渡契約書は買い手が作り、売り手に渡せば終わりではないことです。売り手も株式譲渡契約書の内容に同意して初めて契約が締結します。
実際に個人M&Aにおいても、買い手が株式譲渡契約書を作成し、売り手に提示し修正するという流れを何度も行うことがあります。必要に応じて面談を行う場合もあります。
※株式譲渡契約書は売り手が作成する場合もあります
この作業は個人にとって負担になることが予想され、最終的な決定という重要項目でもあることから、弁護士など法律の専門家に相談することをおすすめします。
専門家に依頼する場合、数十万〜数百万円ほどの費用が発生しますが、契約書のレビュー及び修正だけでなく、法務的な観点からリスクヘッジに関する適切なアドバイスももらえます。
契約を結んだ後に後悔しないためにも、少し費用を出して専門家に依頼するというのは十分に費用対効果を得られるでしょう。
まとめ:M&Aの契約書は雛形を上手く活用していく
今回は個人M&Aにおいて、必要となる可能性が高い契約書について解説してきました。
仕事で契約書を扱う人にとっては、馴染みのある言葉もあるかもしれませんが、そうでない方にとっては難しい内容だと思います。
特に先ほど述べた最終契約書(株式譲渡契約書と事業譲渡契約書)は法的拘束力を持ちます。契約内容に不備があり、後で後悔する可能性も考えられます。
この点を踏まえると、重要な契約書については適時専門家に頼ることも大切です。
なお、これまで説明した内容は、あくまで契約書の概要です。各場面で売り手とどのように交渉し、細かい記載内容など、まだ説明してきれていない実務的な内容も多く存在します。
「個人M&Aなら、M&Acompass」
M&Acompassは、個人M&Aの買い手に対する伴走支援です。これまでM&Aの専門家のサポートが十分に届いていなかった個人の買い手向けの伴走支援であり、個人M&Aの成約を目指すためのM&A戦略立案・案件探しといった初期的な工程からクロージングまでを支援するサービスです。
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