個人買い手が行うM&Aの4つのメリットとは?|3つのリスクの対策も解説
更新日:5月29日
「M&Aは時間を買うものと聞くけど、メリットがいまいち整理できていない」
「M&Aのメリットを把握して、それが自分に何をもたらすのかイメージできるようになりたい」
M&Aのメリットに関する情報は書籍やインターネットにあふれていますが、売り手のメリット・法人買い手のメリットも混在しており、個人の買い手として享受できるメリットを整理できていないケースもあるでしょう。
本記事では、個人の買い手が行うM&Aの4つのメリットを解説します。また、メリットをより深く理解するための前提情報として、個人M&Aの目的と成約後の流れも紹介します。
さらに、メリットと併せて理解してほしいM&Aのリスクにも言及しています。リスクについては、それを回避するための対策も紹介しているので、本記事を利用して個人の買い手として行うM&Aのメリットとリスクを整理してみてください。
前提|買い手目線でM&Aを確認
M&Aのメリットを解説する前に、個人の買い手として実施するM&Aがどのようなものか確認しましょう。個人の買い手として携わるM&Aの姿を具体的にイメージできると、それによって得られるメリットがより深く理解できます。
個人の買い手としてM&Aを行った後、どのような流れで取得した会社に集中していくかも説明するので、読んでみてください。
M&Aの目的
はじめに、個人の買い手として行うM&Aの目的を説明します。多くの場合、個人の買い手がM&Aを行う目的は次の2つです。
起業のためのM&A
副業としてキャッシュフローを生むためのM&A
それぞれ簡単に説明します。
起業のためのM&A
ご存知の通り、M&Aは「Mergers and Acquisitions」の略であり、厳密には「合併」と「買収」を指しますが、日本ではその他の事業再編行為を含めた広い意味で使われています。
個人の買い手として実施するM&Aをスキームの観点から考えると、「株式譲渡」と「事業譲渡」が大半です。
これらは文字通り、株式や事業を取得することです。そのため、M&Aは起業の手段として利用できます。M&Aでは、すでに売上や利益を出しており、組織がある会社もしくは事業を引き継ぐことも可能です。その場合、売上や利益、組織をゼロから作る必要なく起業できます。
あなたのスキルや経験を活かせる業種の会社を取得することで、一定の規模に成長した状態から経営を開始できるのです。このように、個人の買い手によるM&Aの多くは起業のために行われます。
副業としてキャッシュフローを生むためのM&A
また、M&Aは副業を取得するためにも利用されます。M&Aを用いて副業を取得する場合、個人の買い手は現在の仕事を続けながら、取得した会社からキャッシュフローを得ていきます。
そのため、取得する会社は、本業を続けながら管理できるものでなければいけません。一般的に、次のような業種は副業に向きます。
WEBサイト運営
学習塾
飲食店
宿泊業
不動産賃貸業
WEBサイト運営は、夜間や休日・祝日の時間を使って管理運営できるためです。また、学習塾、飲食店、宿泊業、不動産賃貸業は、店舗責任者や不動産管理会社に日常の業務を任せられるため、副業に向きます。
M&Aを利用することで、平日はサラリーマンとして働きながら、他の時間を使ってメディアサイトを運営して継続的な副業収入を得られる状態を実現できるのです。
このように、本業を続けながら管理できる案件を選ぶという点に一定の制限はありますが、M&Aを利用して副業としてのキャッシュフローを得ることも可能です。
成約後の流れ
続いて、M&Aで会社を取得した後の流れを説明します。
一般的に、個人M&Aの買い手としては次のようなプロセスで取得した会社に集中していく形をつくります。
M&Aの交渉の過程で引継ぎに必要な手続きやプロセスを洗い出す
(必要な場合は)売り手である元オーナー社長が引き続き会社に携わるための業務委託契約などを締結する
クロージング(譲渡対価の支払い、会社/事業の所有権の移転)
買い手が、取得した会社の取締役などに就任
取得した会社の従業員に対してM&Aの説明を実施(従業員説明会)
従業員からの相談を受ける窓口の開設・懇親会などで従業員と親睦を深める
売り手である元オーナー社長から業務の引継ぎを受ける
会社の規程などに従って、買い手は役員報酬などを受け取る
(取得時に本業がある場合)あらかじめ定めたタイミングで、買い手は勤務していた会社を退職する
このように、M&Aで会社を取得した場合、本業を退職するまでの間は、取得した会社を引き継ぐプロセスを進めながら本業にも携わるケースが多いです。そして、あらかじめ定めたタイミングで本業を辞めて、取得した会社の経営に集中していきます。
上記の流れは、あくまで一般的なものであり、取得の前後で必要となる手続きやプロセスは個々のM&Aで異なります。ただし、上記の流れを一つのイメージとして持っておくと、M&Aのメリットがより深く理解できます。
M&Aの4つのメリット【個人買い手】
ここまでは、M&Aのメリットを深く理解するための前提知識として、個人買い手におけるM&Aの目的と成約後の流れを説明しました。前置きが長くなりましたが、ここからM&Aのメリットを解説します。
個人の買い手として行うM&Aのメリットは次の4つです。
自らのスキルや経験を活かせる案件を選べる
事業の立ち上げに必要な費用を削減できる
時間を買う(すでに売上や利益、組織のある会社を取得できる)
元オーナー社長から経営について学べる
以下では、それぞれについて詳しく確認していきましょう。
自らのスキルや経験を活かせる案件を選べる
1つ目のメリットは、M&A独自のプロセスに関連するものです。個人の買い手としてM&Aを行う場合、M&Aプラットフォームなどで数多く公開されている案件の中から取得する会社を選び交渉していきます。
大手M&Aプラットフォーム「BATONZ」には、2023年8月20日の時点で1万6300件の案件が登録されており、ここから案件を選べるのです(※1)。他のプラットフォームも利用すると、数万件のなかから交渉を進める案件を選べます。このようなM&A独自のプロセスがあるため、買い手としては、自らのスキルや経験を用いて事業を拡大しやすい案件を選ぶことができるのです。
例えば、システム開発に関する高い技術を有するものの、営業が苦手でリファラルでしか開発案件を取得できていない会社があります。こうした会社を、システム開発会社の営業として結果を出してきた買い手が取得すると、スキルと経験を用いて事業を大きく拡大できる可能性があります。
この点は、ゼロからの起業にはないM&A独自の大きなメリットです。
※1:出典:BATONZ「数字で見るバトンズ」
事業の立ち上げに必要な費用を削減できる
2つ目のメリットは、事業を立ち上げて軌道に乗せるまでの費用を削減できる点にあります。前述の通り、M&Aではすでに事業を営んでいる会社を取得できます。そのため、次のような費用を削減できるのです。
登録免許税
公証人への手数料
登記に関連する費用
店舗取得費用
店舗の内装外装費用
機械や事務用品の購入費用
ゼロから起業する場合、これらの費用だけで数百万円がかかるケースもあります。M&Aでは、株式や事業を取得するために対価を支払いますが、その裏で上記のような費用が節約できるケースもあることを覚えておいてください。
時間を買う
3つ目のメリットは、M&Aについてよく耳にする「時間を買う」という点です。これは、ビジネスや会社を立ち上げて成長させるために必要な時間をお金で買うことを意味します。
どのようなビジネスであっても、立ち上げて軌道に乗せるまでに一定の時間が必要です。M&Aでは、すでに軌道にのっている会社を取得できるため、時間を買うというメリットを享受できます。
元オーナー社長から経営について学べる
4つ目のメリットは、売り手である元オーナー社長から経営や事業運営について学びながら、取得した会社の経営に参画できる点です。誰しも起業時には不安があるはずです。経営のノウハウがなかったり、組織を維持するノウハウがなかったりしますが、ゼロから起業する場合は、原則としてそれらの知見を自分ひとりで蓄積していかなければなりません。
しかし、M&Aの場合は、個人の買い手が会社を取得するまで、その会社を経営してきた元オーナー社長がいます。そして、交渉次第では、元オーナー社長に顧問として会社に残ってもらうことも可能です。また、取得する会社の従業員の中に事業運営を任せられる人物がいることもあります。
このようにM&Aでは、先輩経営者に顧問として残ってもらい、リスクの低い形で経営に参画していくことができるのです。
メリットを得るために注意すべき3つのリスク
ここまで個人の買い手として行うM&Aの4つのメリットを解説しました。M&Aは、買い手が有するスキルや経験を活かせる案件を選ぶことができ、ビジネスを軌道に乗せるまでの費用と時間の節約につながり、先輩経営者から経営について学べる手法ということがイメージできたでしょうか。
しかし、個人の買い手として行うM&Aにも注意すべき点はあります。ここからは、メリットを得るために注意すべきM&Aのリスクについて解説します。次の3つのリスクを解説しますが、それぞれに関する対策も併せて紹介するので安心してください。
取引先が離れるリスク
従業員が離職するリスク
簿外債務が存在するリスク
以下では、それぞれについて詳しく確認していきましょう。
取引先が離れるリスク
1つ目のリスクは、M&Aにより対象会社の取引先や顧客が離れるものです。特に、元オーナー社長との属人的な人間関係のうえに存在する取引先や顧客は、M&Aにより経営者が交代することで会社から離れる場合があります。
例えば、M&Aで食品卸売事業を営む会社を取得し、食品の卸先の1社が元オーナー社長の友人が経営する会社のようなケースです。このような場合、卸先の会社は、元オーナー社長との長い付き合いから取引をしている場合があります。そして、M&Aをきっかけに元オーナー社長が経営から退いたタイミングで、より安く仕入れのできる別の食品卸売会社との取引を開始するのです。
このように取引先や顧客が離れると、会社の売上や利益にネガティブな影響が出る場合があります。
取引先との関係を確認し、引継ぎ期間を作ってリスクを回避
取引先が離れるリスクを回避するためには、次の2つが重要です。
QAや両者面談のプロセスで、元オーナー社長と取引先の関係を確認する
M&A後も、元オーナー社長に半年〜1年は会社に残ってもらう
はじめに、そもそも元オーナー社長と属人的な人間関係を持つ取引先が存在するかどうかを確認します。これらの確認は、買い手から売り手に質問するQAのプロセスや、顔を合わせて話す両者面談のプロセスで行いましょう。
そして、属人的な関係の取引先が存在する場合は、M&A後も元オーナー社長に会社に残ってもらい、取引先が急に離れることを防ぎます。そして、元オーナー社長から取引先に紹介してもらい、新しい経営者として取引先との関係を構築しましょう。
このように事前の確認と引継ぎ期間を利用して、取引先が離れるリスクを回避できます。
従業員が離職するリスク
2つ目のリスクは、M&Aをきっかけに従業員が離職するものです。中には元オーナー社長と属人的な人間関係を有するがゆえに、M&Aをきっかけに離職する従業員もいますが、属人的な人間関係がない場合でも従業員の離職には注意が必要です。
例えば、M&Aにより会社を取得した買い手が経営のために従業員の雇用条件を変えようとするのは危険です。また、従業員の労働環境を大きく変えることによって不満が生じる場合もあります。
このようにM&Aをきっかけに従業員が離職すると、新しい従業員を採用するためのコストがかかり、それが上手くいかなければ会社の売上や費用にネガティブな影響が出る場合があります。
会社風土を理解し、従業員との関係を構築してリスクを回避
従業員が離職するリスクを回避するためには、次の3つが重要です。
QAや両者面談のプロセスを活用して、対象会社の風土や従業員の特性を理解する
M&A後、相談窓口の開設・懇親会の開催をして、従業員の不安をケアする
制度や環境を変える場合は、従業員と十分な関係を作ってからにする
原則として、M&Aは買い手と売り手の合意によってなされるため、従業員は社長交代という大きな出来事を突然知らされることになります。そのため、売り手との交渉であらかじめ会社の風土や従業員の特性を把握しておき、M&A後には彼らをケアする施策を導入すると良いでしょう。
例えば、なぜM&Aを決断したのかについて元オーナー社長からも話してもらい、そのうえで、新しい経営者として従業員をおろそかにせず、会社の成長に真摯に取り組む旨を伝えるなどが有効です。その際に、従業員の雇用条件を変えない旨も明確に伝えられると良いでしょう。
また、それでも動揺する従業員のために、M&Aに関連する事項を相談できる窓口を開設し、懇親会なども利用しながら従業員のケアを行います。
さらには、日常的なビジネスの現場でも従業員とよくコミュニケーションを取り、信頼関係を構築することが重要です。このように丁寧に関係を構築した後であれば、会社の成長のために必要な新しい制度や変化も受け入れられやすくなるでしょう。
簿外債務が存在するリスク
3つ目のリスクは、M&Aの対象会社に簿外債務が存在するものです。簿外債務とは、貸借対照表に計上されていない債務を指します。計上すべきなのに計上されていない債務が存在すると、買い手は対象会社の価値を正しく算出できなくなります。また、M&A後に簿外債務の返済を求められて、想定していなかったキャッシュの流出が起こる場合もあります。
簿外債務には、次のようなものがあります。
未払い残業代
退職給付引当金
賞与引当金
未払社会保険料
リース債務
債務保証
訴訟リスク
いずれも本来は、M&Aの前に把握する必要があり、これらを把握したうえで対象会社を取得するための価格を算出します。しかし、売り手が故意に隠そうとした場合、買い手として簿外債務に気付くのは難しくなります。そのような場合も含めて、M&Aでは以下の形で簿外債務のリスクを回避します。
デューデリジェンスと最終契約でリスクを回避
簿外債務のリスクを回避するためには、次の2つが重要です。
デューデリジェンスにおいて専門家の目で簿外債務の有無をチェック
最終契約で、リスクをコントロールする条項を定める
はじめに、個人の買い手として行うM&Aであってもデューデリジェンスを活用して、専門家の目で対象会社のビジネスや財務について確認します。個人M&Aの規模に合わせて要点をしぼったデューデリジェンスであれば、数十万円から実施することができます。仮にデューデリジェンスで簿外債務が見つかった場合は、簿外債務の金額を取得価格から控除したり、対象会社の取得自体を見送りにしたりします。
そのうえで、簿外債務が見つからなかった場合であっても、最終契約にリスクをコントロールする条項を定めます。デューデリジェンスを実施しても、全ての簿外債務を確実に見付けられるわけではありません。そのため最終契約で「簿外債務がないこと」を売り手に表明保証してもらうのです。そして、万が一、M&A後に簿外債務が発覚した場合に備えて、表明保証違反に基づく契約解除や損害賠償に関する条項も定めます。
このようにデューデリジェンスによる確認と、最終契約によるリスクヘッジを実施して、簿外債務のリスクを回避します。売り手に悪意がなく、簿外債務を簿外債務として認識していないだけの場合もあります。それらの場合であっても適切な対策を実施しない場合に損害を被るのは買い手です。売り手がどんなに信頼できる人物だとしても、自らを守るために簿外債務の確認と対処を徹底しましょう。
まとめ
本記事では、個人の買い手目線でM&Aの目的と成約後の流れを確認し、M&Aの4つのメリットと、注意すべき3つのリスクについて確認しました。
本記事のポイントは次の通りです。
M&Aの目的と成約後の流れを理解すると、M&Aのメリットがより深く理解できる
M&Aでは、自らのスキルや経験を活かせる案件を選ぶことができる
M&Aは、ビジネスを軌道に乗せるまでの費用と時間の節約につながる
元オーナー社長に会社に残ってもらうことで、経営を学べる
取引先や従業員が離れるリスク、簿外債務について対策し、リスクを回避しよう
個人の買い手はM&Aを利用して起業したり、副業としてのキャッシュフローを得たりすることができます。今後、会社からの独立を検討している方にとって、M&Aは価値のある選択肢となるでしょう。一方で、適切にリスクヘッジしたうえでM&Aを成功させるためには専門的な知見が必要です。
「個人M&Aなら、M&Acompass」
M&Acompassは、個人M&Aの買い手に対する伴走支援です。これまでM&Aの専門家のサポートが十分に届いていなかった個人の買い手向けの伴走支援であり、個人M&Aの成約を目指すためのM&A戦略立案・案件探しといった初期的な工程からクロージングまでを支援するサービスです。
「M&Acompass」では、毎週さまざまなテーマでセミナーを開催しています。
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